Verizon 2026 DBIRに見るShadow AI——承認済み経路をどう設計するか

白地に細い黒線で描かれた、門のような枠の周囲を無数の矢印がすり抜けていくモノクロイラスト(承認された経路の外側を流れる利用の比喩)

AI導入 · 2026-08-22 · 10分

「許可制にして使ってよいAIをリスト化すれば管理できる」——Verizonの2026年DBIRが示す利用実態は、その前提をどこまで維持できるかを問い直すものでした。

Verizonが2026年5月19日に公表した「2026 Data Breach Investigations Report」(DBIR、第19版)は、企業の端末上でAIサービスを使う従業員が急増している実態を報告しました。

同レポートは別に、会社管理外のアカウントや未承認のブラウザ拡張機能を通じた利用が広く確認されていることも報告しています。

同レポートのデータセットでは、AIプラットフォームへ少なくとも15日に1回アクセスする「定期利用者」が、前年の15%から45%へ増えたとされています。

この45%には、会社が承認したAI利用と、していないAI利用の両方が含まれています。

一方、AIサービスを利用する人のうち67%は、会社支給の端末を使いながら、会社管理外のアカウントでアクセスしていたとも報告されています。

この二つの数字を続けて読むと、「45%の従業員が無断でAIを使っている」という意味に見えるかもしれませんが、それは正確ではありません。

45%は認可の有無を問わない利用率、67%はAIサービス利用者のうち会社管理外のアカウントを使っていた人の割合で、それぞれ分母も測っているものも異なります。

また、これらはVerizonが提供するDLP(情報漏洩対策)サービスや企業端末のテレメトリデータに基づく値であり、全企業・全従業員を対象にした無作為調査ではありません。

分析対象となっているのも主に2025年のデータです。

「会社としてAIツールの利用を許可制・禁止リストで管理すればリスクは防げる」と考える情報システム・経営責任者は少なくないはずです。

本稿では、この報告が実際に示している事実と、そこから私たちが考える設計上の論点を分けたうえで、その前提をどこまで維持できるかを整理します。

45%と67%——測っているものが違う二つの数字

DBIRの原文に沿って、二つの数字の定義を確認しておきます。

一つ目は、AIの「定期利用者」の割合です。

DBIRは、企業端末からAIプラットフォームへ少なくとも15日に1回アクセスする人を「定期利用者」と定義しており、この割合が前年の15%から45%へ増えたとしています。

ここで重要なのは、DBIR自身が「認可の有無を問わない(authorized or not)」と明記している点です。

つまり45%は、承認されたAIサービスの定期利用と、承認されていないAIサービスの定期利用の両方を含む数字であり、「無断利用の割合」ではありません。

二つ目は、会社管理外のアカウント利用の割合です。

DBIRは、AIサービスを利用している人のうち67%が、会社支給の端末を使いながら会社管理外のアカウントでアクセスしていたと報告しています(前年は72%で、割合としてはやや減少)。

この67%が指しているのは、AIサービス利用者数を分母にした「アカウントの種類」であり、アクセスの回数や、個人メールアドレスに限定した数字ではありません。

また、67%は45%の内訳として計算してよい数字ではありません。

それぞれ別に観測された割合です。

さらにDBIRは、Shadow AI(未承認の生成AIサービス利用)が、2025年のDLPサービスのデータセット上で、非悪意のインサイダー行動として3番目に多い項目になり、その割合が前年の4倍になったとも述べています。

この「3番目・4倍」は、45%や67%とは別の集計軸(DLPが検知した行動の分類)の数字である点に注意が必要です。

45%が示しているのは、AI利用そのものの広がりです。

67%とShadow AIのDLP分類は、それとは別に、観測された利用のうち相当量が会社のアカウント管理の外側の経路で行われていたことを示しています。

三つはいずれも同じ環境の別々の側面を測ったものです。

85万8,440件のDLPイベントに何が含まれていたか

DBIRは、未承認・非信頼の生成AIツールを対象としたDLPイベント85万8,440件についても、含まれていたデータの種類を分析しています。

これは検知されたイベントの件数であり、利用者の人数でも、実際に情報が漏洩した件数でもありません。

データの種類としては、ソースコードが他を大きく引き離して最も多く、次いで画像、その他の構造化データが続くとされています。

さらに、DLPイベントの3.2%では、研究・技術文書が未承認のAIシステムへアップロードされていたことも確認されており、DBIRはこれを知的財産の流出リスクとして位置づけています。

もう一つ見過ごせないのが、ブラウザ拡張機能です。

DBIRによれば、平均的な企業では、利用者の15%超が未承認のAIブラウザ拡張機能を導入していたといいます。

これはDBIRが示す「平均的な企業」における値であり、すべての企業に等しく当てはまる数字ではありません。

この種の拡張機能の主な機能の一つは、閲覧している内容を文脈として収集・保持することだとDBIRは説明しています。

したがって、従業員が社内サイトを閲覧している場合、非公開のデータがその拡張機能に取り込まれる可能性がある、という言い方が正確です。

ログイン情報や認証情報そのものを拡張機能が収集しているとまでは、DBIRは述べていません。

「非悪意」は、利用の動機を示す言葉ではない

DBIRはShadow AIを、悪意のある情報持ち出しとは別の区分である「非悪意のインサイダー行動」に分類しています。

ここで注意したいのは、「非悪意」という分類が、DLPのデータ上そう区分されたという意味にとどまる点です。

「業務を早く終わらせるためだった」「承認済みツールが使いにくかったから」といった利用の動機まで、DBIRが調査して裏付けているわけではありません。

私たちの記事でも、この先の「なぜ現場がその経路を選ぶのか」という説明は、DBIRの調査結果ではなく、私たちの解釈として扱います。

ここから先は、私たちの見方

DBIRが直接示しているのは、ここまでの内容です。

企業端末でのAI利用が広がっていること、そのかなりの部分が会社管理外のアカウントや未承認の拡張機能を通じて行われていること、そして持ち出されるデータの種類です。

なぜ従業員がその経路を選ぶのか、禁止や許可リストの厳しさが利用行動にどう影響するかまでは、同レポートは検証していません。

ここから先は、私たちが日々のAI導入の相談で見聞きしてきた範囲での見方になります。

会社が個人メールでの業務利用を禁止しても、承認済みの経路が使いにくく遅ければ、結局は個人メールで仕事を終わらせる人が出てくることがあります。

AIツールについても、同じ構図が働きうると私たちは考えています。

「使うな」という禁止だけでは、従業員がその業務を今日中に終わらせなければならないという現実の前で、力を失うことがあるという見方です。

これは実測されたデータそのものではなく、私たちの設計上の仮説として提示するものです。

一例として:Shadow AI対策を設計する項目

この見方に立ったとき、実務としてどこを設計すればよいかのたたき台を示します。

以下は一例であり、正しい設定を示すものではありません。

自社の業務内容、規制、リスク許容度に応じて置き換えることを前提にしています。

設計対象確認する問い主な実装先
承認済みサービスとアカウントどのAIサービスを会社管理アカウント・SSOで使わせるか。会社管理外アカウントの扱いをどう決めるかIDプロバイダ・SSO・SaaS管理・利用契約
入力可能なデータ公開・社内限定・機密・規制対象のデータのうち、何をどの環境まで入力してよいかデータ分類・利用規程・DLP
拡張機能・外部連携どのAIブラウザ拡張機能・外部連携を許可し、誰が追加・取消を承認するか管理ブラウザ・端末管理・アプリ許可設定
データフローの検知コード・画像・文書等の外部送信を、どこで記録・警告・遮断するかDLP・Webプロキシ・監視の仕組み
利用しやすさと申請経路現場に必要な機能・速度が承認済み経路にあるか。新しい用途を申請する窓口があるか社内の相談・申請の窓口
例外と見直し例外利用を誰が承認し、何を記録し、いつ見直すか情報システム・法務・業務部門

この表で大事なのは、右列がすべて「製品の設定」だけでは完結しない点です。

どのデータを入力してよいか、誰が最終責任を持つかは、製品を選ぶ前に社内の判断として決めておく必要があります。

承認済み経路を作るときに見落としやすいこと

承認済みのAI経路を用意しても、それだけで安心できるわけではありません。

使い勝手が会社管理外の選択肢に負けていないか。

承認済みのツールが遅い、手数が多い、必要な機能が無いといった状態では、会社管理外のアカウントや拡張機能へ流れる構図がそのまま残ります。

禁止する側の設計より、選んでもらう側の設計に手間をかける必要があります。

拡張機能のような”見えない経路”への目配り。

URLを開いて使うツールだけでなく、拡張機能の形で常駐するAIも管理対象に含めておく必要があります。

記録と見直しの仕組み。

どのデータをどの環境まで入力してよいと決めたか、誰が承認したかを記録に残しておくと、後から実態に合っているかを見直せます。

まとめ:二つの数字を混同しない

Verizonの2026年DBIRが示した45%(AIの定期利用者、認可の有無を問わない)と67%(AIサービス利用者のうち会社管理外アカウントを使っていた人)は、別の対象を測った数字です。

この二つを混同すると、実態より強い言い方になってしまいます。

DBIRが直接示しているのは、企業端末でのAI利用の広がりと、会社管理外の経路を通じた利用が相当数確認されているという事実までです。

禁止や許可リストを整備することと、現場が承認済みの経路を実際に選ぶことは、別の話だというのが私たちの見方です。

自社の状況を確認するなら、次の点から始めることをおすすめします。

  • 会社が把握しているAI利用率と、DBIRの定義(認可の有無を問わない定期利用)は同じ基準で測れているか
  • 承認済みの経路は、現場にとって会社管理外の選択肢より「使いたくなる」ものになっているか
  • ブラウザ拡張機能のような、目の届きにくい経路への対策は含まれているか

禁止の網を細かくすることと、承認された経路を選びたくなる形にすることは、どちらも必要であり、どちらか一方では足りない——それが、この数字から私たちが読み取っていることです。

情報確認について

本記事は、Verizonが2026年5月19日に公表した「2026 Data Breach Investigations Report」(第19版)の本編(「DataGPT: gone, pilfered or transferred」、本編60〜61ページ)およびExecutive Summary(12ページ)を主要な参照元として作成しています。

Shadow AI関連の分析対象は、主に2025年にVerizonのDLPサービス・企業端末のデータセットから収集された値であり、全企業・全従業員を代表する無作為調査ではありません。

「定期利用者」は、DBIRの定義でAIプラットフォームへ少なくとも15日に1回アクセスした人を指し、45%にはAI利用の認可・未認可の両方が含まれます。

67%は、AIサービス利用者のうち、企業端末で会社管理外のアカウントを使っていた人の割合です(前年は72%)。

85万8,440件は、未承認・非信頼の生成AIツールを対象としたDLPイベント数であり、利用者数やファイル数、確認済みの情報漏洩件数を示すものではありません。

ブラウザ拡張機能に関する15%超という数値は、DBIRが示す「平均的な企業」における値です。

本記事における、禁止・許可リストに加えて承認済み経路の使いやすさや検知の仕組みを併せて設計すべきという整理は、上記の一次資料そのものではなく、私たちMIFの考察です。

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